宇部工業高等専門学校 物質工学科
教授 山﨑 博人(やまさき ひろひと)様
- 第1回:自己紹介
- 国立宇部工業高等専門学校物質工学科の山﨑博人と申します。
担当講義は有機・高分子化学で、研究分野は低炭素社会の実現と、人々がより豊かな生活の営みを送れるために役立つ『機能性型あるいは環境共生型の高分子材料の創成と、環境技術の開発』を目標に掲げ、やっと二十歳になろうかという若い学生さん達と研究を遂
行しております。
これまでに工業廃水中の有用物質の回収技術や、濃縮機能をもつ微生物固体化担体を用いた排水の高効率処理技術を、地域や他府県の企業技術者と連携し、共同開発してきました。
近年は水熱反応による藻油バイオ燃料製造の技術開発といった再生エネルギーテーマにも取り組んでいます。 - 第2回:教え
- 私は高校生の頃、学問の中で何よりも化学分野に興味をもっていたので、国立大学工学部応用化学科に進学しました。
4年時、研究室の恩師から“工学とは社会に役立つものをつくること”と教えられ、それを重んじるようになりました。
一方、私は国立工業高等専門学校(以下、高専と略称)に着任後、先輩教授から高専で進める研究手段として、高分子合成とは別の環境技術に関する研究の手解きを受け、この門戸を開きました。
同教授から企業連携を進めるに当たり“信頼関係を築くには、些細な課題であっても誠意をもって取り組むことが重要”と教えられ、その姿勢で企業技術者と共に課題解決に努めました。 - 第3回:シクロデキストリンとの出会い
- 地域の企業技術者から“10wt%量の残留未反応有機化合物を含む水溶液を、工業廃水として有償処分している。この廃水から未反応物を回収できないか”という技術相談が隣接大学にありました。
大学教授は水中では有機物を分子内空洞に捕獲し、アルコール中ではそれを放出する性質をもつ『シクロデキストリン』を使った吸着剤を合成し、これを応用すれば課題解決につながると考えました。
自身の大学研究室に合成設備を持ち合わせてなかったことで誘われ、企業・大学・高専による共同研究が実現しました。
1回で70%程度、同じ処理水を7回積算処理すると99.8%回収できる吸着剤を開発しました。 - 第4回:微生物固定化担体への展開
- シクロデキストリン吸着剤を用いた処理水には、排水基準を上回る有機物を含有しているので、河川放出前に微生物による排水処理が必要です。
そこで、シクロデキストリンを導入した有機物濃縮効果をもつ球状含水ゲル状の微生物固定化担体を企業技術者と共同開発しました。
分解処理時間を1/3に、余剰汚泥排出量を1/2に抑制できる効果を得ました。この様に工業高等専門学校に席を置く身だからこそ、自由に研究課題を設定でき、環境技術の分野に通常とは異なるアプローチから展開できました。
土木分野の技術者よりオファーを頂いた折りには、課題解決に向け喜んで取り組みたいと思います。